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『点にダイブする』@ Kyoto Experiment の批評文 

出典 京都芸術センター通信 01

January 2019 Vol.224 発行│京都芸術センター

KYOTO EXPERIMENT 京都国際舞台芸術祭 2018

手塚夏子/Floating Bottle

Floating Bottle Project vol.2

『Dive into the point 点にダイブする』

2018年10月26日(金)- 28日(日)

ロームシアター京都 ノースホール(京都市左京区)

 

「ご自由にどうぞ」

楠 海緒

 

ゲームリーダーからの指示は「大声で笑ってください」「2回ジャンプしてください」「左を向いてください」。シンプルでありながら選び抜かれたようなその3つの指示に、私は強い抵抗を感じた。手塚夏子/Floating Bottle『Dive into the point 点にダイブする』を観劇。この作品は劇場で上演されながらも西洋近代化をテーマとした「実験」と称され、演者のパフォーマンスを客席から鑑賞するような舞台作品とは異なる形態をとる。演出としてクレジットされている手塚夏子、ヴェヌーリ・ペレラも観客とともに実験に参加し、ソ・ヨンランは映像で出演する。会場に入ると、椅子が円形に並べられており、観客はそこに座って開演を待つ。後方の壁際には楽器や様々な衣装、本、飲み物などが、「ご自由にどうぞ」の張り紙とともに設置されていた。開演時間になると「だるまさんがころんだ」のゲームが始まる。鬼が「だるまさんがころんだ」と唱える間に前進、振り返ると静止する、それが何度かくりかえされると、突然アナウンス音が鳴り、スクリーンに映像が映し出される。「鬼は『だるまさんがころんだ』の代わりに『1・2・3・4・5』と唱えてください」。ゲームが進行するにつれて、「赤・青・黄の3色チーム対抗戦とする」「優秀なチームにはトロフィーが授与される」「ゼッケンをつけて個人を番号で管理する」など、次第に「だるまさんがころんだ」のルールから逸脱して、「指示を出すもの」と「それに従うもの」から成り立つ場が形成されていった(途中、「積極的にゲームに参加することに同意する」という改定も存在した)。「鬼」は「ゲームリーダー」と呼ばれるようになり、メガホンを使って唱えられる言葉は冒頭挙げた3つの指示に変わった。残り40名ほどの参加者は、3名のサブリーダーによりリーダーの指示に従うことができるか監視される。うまく指示に従える優秀な参加者は前に出され、従うことができない者は後ろに下げられていく。私は妊娠しているため、自分の意思とは関係なく「2回ジャンプ」することができなかった。その時私はこの場において弱者であることがまざまざと感じられた。「左を向く」という負荷を体にかけることはできても、「2回ジャンプ」することはできない。「大声で笑う」ことは、初めは気恥ずかしさから、次第に「笑う」という感情を伴う行動が、感情を伴わないまま無理やり起こされることへの恐怖から、笑おうとする行為が私をどんどん笑えなくさせていった。その間ものの20分、劇場の中に仮想的な社会が生まれた。リーダーの指示内容もその指示に従う行為も、意味を生み出さないにも関わらず、なぜ多くの参加者は積極的に指示に従ったのか。そこには「私は優秀な人間である」という自尊心があったのかもしれない。サインした合意書も優勝チームに与えられるトロフィーも、一歩この劇場(=社会)を外に出ればなんの効力も持たない。しかし、それでも多くの参加者はこの社会で提示された強いルールに迎合してしまう。私は、指示に従えない結果たどり着くことができた舞台後方「ご自由にどうぞ」のスペースの暖かさに、ようやく素直に呼吸できる気がした。

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